NCNP×筑波大学によるメンタルヘルスに関する研究結果を受けて
2022/01/19
選手の立場から見る研究結果 ~「早急なケアシステムの構築」と「アスリートの環境適応力」について~
この度、日本ラグビーフットボール選手会、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部、筑波大学のグループはCOVID-19 感染拡大中のラグビー選手におけるメンタルヘルスの実態 ~ジャパンラグビートップリーグ選手(当時)におけるメンタルフィットネス*1の調査からの報告~ において、ジャパンラグビートップリーグ(当時)男性ラグビー選手に実施した COVID-19 感染拡大前後の二時点の調査から、 日本のアスリートのメンタルヘルス実態について、環境変化で不調が改善される一群がいる一方で、メンタルヘルスの専門家による支援が必要な選手が一定数存在することを示しました。
この研究結果から、選手の立場として二つの点が見えてきたと考えています。
一つ目はNCNPリリース内の「結果から言えること」でも述べられているように、専門家の支援を要するような一群(中等度~重度のうつ不安症疑い)は環境の変化に関わらず一定の割合で存在しており、これらの選手達へのサポート及びケアシステムがチームやリーグにおいて導入されることが早急に求められる状況であるということです。また一歩進んだ話をすれば、選手にとっては話すことでリスクになる話題も存在し、そうした話題も含めて気兼ねなく相談することができる「利害関係のない専門家及びそれに類する知見を持った人材」とのコンタクトが用意されるシステムを構築することが重要であると言えます。
二つ目は、環境変化により状態が改善される比較的軽症な一群(心理的ストレス)がいたということから考えられることです。コロナ禍におけるスポーツチームへの影響は観客動員やイベント対応方法などに留まらず、チーム活動の維持に伴う各種制約やトレーニング方法の変化、拘束時間や個人活動時間の増減など多岐にわたります。こうした多様なストレス要因に晒されながらも心理状態が改善に向かう、もしくは維持できた背景には「アスリートの環境適応力」があると考えます。ある研究では、普段から600種類以上のストレス要因に囲まれて生活しているとされるアスリートは、その競技パフォーマンス向上を中心に据えた生活を送ります。このような一点に特化した生活は自ずと制約の多いスタイルになりがちですが、そこまで特別なことではありません。コロナ禍における制約のある生活は未曾有の事態でしたが、感覚的には前述した生活の延長線上にあり、そこからより強いストレスがかかった状態だとも言えます。つまり「つらい環境に慣れている」アスリートはコロナ禍の生活に順応するための「環境適応力」が高かったのではないかとも取れます。
ただここで重要なことは、こうした環境に対して「我慢」だけをして対応している状況であればそれは好ましくないと言わざるを得ません。困難な状況を認識し、対処する。さらにその時の心の状態を把握して受け入れ、柔軟に適応していくことが本当の「環境適応力」 だと考えます。よって「我慢」できるから良い、ではなく「困難な状況を理解し、明確に向き合えるスキル」をアスリート及び社会に対して発信していけるよう、引き続き「よわいはつよいプロジェクト」を進めていければと思っております。
(END 2022-01-19-WED)